
概要
ロイヤルホテルグループは、1935年の創業以来、「あたたかい心によるおもてなし」を信念に、日本を代表するホスピタリティを提供し続けてきました。一方で、グループ全体のマルチブランド戦略が進展する中で、既存の都市型ホテルや洋式リゾートだけでは応えきれない、余暇や癒しに対する新たな感性層のニーズが顕在化していました。本プロジェクトは、同グループ初となる温泉リゾートブランド「NOWA by RIHGA(のわ)」の立ち上げに伴い、ブランド戦略の設計からVI(ビジュアル・アイデンティティ)開発までを一貫して行った取り組みです。単なる新規名称やロゴの開発に留まらず、老舗ホテルグループがなぜ今、温泉リゾートという領域に踏み出すのか。その存在意義と必然性を言語と視覚の両面から精緻に構造化し、長期にわたって継承可能なブランドの骨格を構築しました。
背景
ロイヤルホテルグループは、多様な宿泊体験を通じて日本のホテル文化を牽引してきました。しかし近年、旅の目的は「観光」から「休息」へとシフトしており、心身を深くリセットするための「静謐な品格」や「本物志向の温泉・美食体験」を求める声が急速に高まっています。こうした市場動向に対し、私たちは既存の老舗旅館とも、外資系ラグジュアリーホテルとも一線を画す「第三の選択肢」を提示する必要があると考えました。賑わいや装飾的な豪華さではなく、滞在を通じて「心がほどけていく体験」そのものを本質的な価値として成立させること。それが、新ブランドに託された使命でした。舞台として選ばれたのは、日本最古の歴史を誇る名湯・有馬。この土地が持つ精神性と、ロイヤルホテルが培ってきた接遇思想をいかに高度に接続させるかが、ブランド設計における重要な論点となりました。
目指した姿
本プロジェクトの核心は、単なる宿泊施設の提供ではなく、新たな「和のリトリート」の定義にありました。ロイヤルホテルが守り続けてきた「あたたかい心、美食、接遇」の思想を、温泉リゾートという文脈でどう現代的に再解釈するか。賑わいや演出過多を排し、いかにして「静寂」そのものを至上の価値として提示できるか。人・自然・食がゆるやかに調和し、旅の余韻が日常まで浸透していく。その体験を端的に象徴したのが、「こころの静寂に、心尽くしのおもてなし」というブランドコンセプトです。静寂を単なる「音の欠如」ではなく、心と向き合うための精神的ラグジュアリーとして再構築することを目指しました。

支援内容
プロジェクトの始動にあたり、私たちはブランドを立ち上げること自体の意義を問い直すことから着手しました。ロイヤルホテルのパーパスを起点に、温泉リゾート領域における「あたたかい心」のあり方を徹底して議論し、ブランドの提供価値を研ぎ澄ませていきました。
伝統の再解釈とブランド・ポジショニングの定義
市場調査と競合分析を通じ、「ここだけの特別感」と「持続する満足度」を軸とした独自のポジションを特定。老舗旅館のおもてなしとも、外資系ホテルのサービスとも異なる、「静かなる革新」としての立ち位置を明確にしました。ブランド名「のわ」には、和、調和、つながりといった意味を内包させ、自身や自然と重なり合う場としての願いを込めています。

精神性を可視化するVI開発と意匠の設計
VI開発では、記号的な強さよりも、ブランドの佇まいがにじみ出るような「品格」を追求しました。「心正則筆正(心正しければ筆もまた正しい)」という東洋の精神性を背景に、筆致のわずかな揺らぎや余白に心を写し込む設計を行いました。この意匠は、デジタルメディアから館内の暖簾、印刷物に至るまで、建築や空間と共鳴しながら機能するよう最適化されています。

価値を継続させるブランドガイドラインの構築
立ち上げ期の一過性の表現で終わらせないため、ロゴ、カラー、タイポグラフィ、グラフィックエレメントの運用を体系化した詳細なブランドガイドラインを整備。長期的なブランドの育成を見据え、あらゆる顧客接点において「NOWA」の思想を正しく表現し続けられる状態を整えました。

成果
老舗ホテルグループ初の温泉リゾートブランドとして、極めて明確な思想と立ち位置が確立されました。温泉、美食、接遇を一つの物語として体験できる基盤が整い、建築やサービスと矛盾しないVIが構築されています。今後の多拠点展開にも耐えうる強固なブランドの骨格が定まりました。
「NOWA」は、即時的な消費を目的としたブランドではありません。静寂と向き合う時間の質を何よりも尊び、その価値が時を経て深まっていくことを前提に設計されています。訪れた人の内側に深く残り、長い歳月をかけて育っていくためのブランドアセットが、ここに完成しました。
Credits
All
- Brand Director
- 湖内 慶吾
- Art Director / Designer
- 小猿 啓太
- Copy Writer
- 山田 知奈 (ハタジルシ)